シナリオ習作集⑧「黒い指のチカ・前編」

とあるシナリオ教室にて提出した課題を掲載しています。

ご意見お待ちしております。

 

課題「出会い」 20x10 の原稿用紙15枚

○初めて会う人同士にすること。再会などは不可。

○人と人同士が出会う事。人と物、人と宗教、私と亀、などは不可。

○これからドラマに発展していきそうだという出会いを描いてください。

○起承転結の内、『起承』だけを取り出したような、完結していないものが望ましいです。また続きが気になるよう、観客の気を引くように締めくくってください。

 

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タイトル「黒い指のチカ・前編」

 

人物

玄野浩人(27)玄野家の一人息子

黒川チカ(23)『玄野仏壇』住み込みの新米職人

玄野悟(57)浩人の父。『玄野仏壇』社長兼職人

老人(73)『玄野仏壇』の客

 

〇(※走る)電車・車内(朝)

   東に見える『伊吹山』に朝日が差す。

   玄野浩人(27)が窓辺に肘をついている。

浩人「三年ぶりか----。長い家出だった……」

   一層物憂げな表情を滲ませる。

 

〇玄野家・玄関(朝)

   田舎づくりの家屋の引き戸が揺れる。

   鍵を開けた浩人が玄関を上がる。

浩人「ただいま……」

   返事はなく辺りも薄暗い。

浩人「一応連絡したんだけどな」

   すぐ傍らの階段を登る。

 

〇同・二階 浩人の部屋

   浩人、襖を開けて荷物を下ろそうとす

   ると、黒川チカ(24)が着替えてい(る)。

   二人とも短い悲鳴を上げる。

   浩人、襖を閉めるも肩から下ろそうと

   した荷物にもつれ、廊下ですっ転ぶ。

 

〇同・玄関

   階段を駆け下り(た)浩人の驚愕の表情。

浩人「誰……? 何で俺の部屋に?」

   ゆっくりと階段を下りてき(た)チカ。

チカ「あの、玄野さんの息子さんですよね?」

   作務衣姿のチカが浩人の前に膝をつく。

チカ「私『玄野仏壇』さんでお世話になって

 ます黒川チカです。よろしくお願いします」

   恭しいチカを呆けて見つめる浩人。

   突如、玄野悟(57)が玄関から入ってくる。

玄野「チカちゃん、準備できたか? ----何

 や浩人、もう帰ってたんか?」

   玄野、浩人の腕を掴みひっぱりこむ。

玄野「ちょっとお前も仏壇運び手伝え!」

   戸惑う浩人の後ろをチカがついてゆく。

 

〇トラック・車内(朝)

   2tトラックに座る浩人・チカ・悟。

浩人「おい親父、人雇ったって聞いてんぞ⁉」

玄野「出戻り息子に言う必要あるんか⁉ チ

 カちゃんはもう二年近く住み込みで働いて

 くれてるんや。お前は物置、部屋譲ったれ」

   閉口する浩人に申し訳なさそうなチカ。

 

〇お客さんの家・座敷(朝)

   晒(さらし)を取ると洋ダンス程の仏壇が表れる。

   漆(うるし)の光沢を見て家主の老人(73)が呟く。

老人「ほぉ~、よう直して下さった」

   細い晒を底部に通し、浩人、玄野が担

   ぎ上げ、チカは正面を押さえている。

老人「これで安心して息子に継がせられるわ」

   慎重に仏間へ納めようとしている三人。

   チカ、畳の縁にけつまづき仏壇を押す。

   悲鳴を上げる一同。

   仏間の壁にぶち当たる仏壇。

 

〇玄野家・作業場・塗り場

   (板)の間に簡素な座卓に座布団。脇の小

   さな棚に大小の刷毛と漆入りの茶碗。

   角の欠けた仏壇の台輪を前に玄野が、

玄野「まいったねー。これの直しか……」

   チカ、顔を赤くしてうなだれている。

玄野「そうだ浩人。お前、これ直せ」

   浩人は驚いて自らを指差す。

玄野「お前かて5年選手やろ? ワシは明日

 からお寺の内部塗装で居いへんし、元々残

 る予定のチカちゃんには出来へん。ついで

 に仕事を見たってくれ。仕事見つける言う

 ても時間かかるやろ。その間でええから」

   呆ける浩人にチカが頭を下げる。

 

〇玄野家・作業場・塗り場

(※次の日でしょうか?何か時間経過の工夫をしてみて下さいね)

   作務衣の浩人が台輪にパテをつける。

   町の時報が響き渡る。

浩人「お昼にしましょうか?」

   続きの部屋のチカが腰を上げ、シンナ

   ーの缶を持ち、布にふくませる。

   漆で黒く汚れた指先。

玄野の声「指で黒く汚すのは下手な証拠や。

 持つ品物みんな汚れるからなー」

   浩人、顔をしかめ眉間に皺を作る。

 

〇同・縁側

   浩人とチカ、距離をやや空けて座り、

   弁当を食べている。

浩人「チカさんって、何で漆塗り始めたの?」

チカ「……友達の家に玄野さんの作った仏壇

 があったんです。それに感鳴して」

   (後に調べたら『感鳴→感銘』でした)

浩人「それだけ?」

   チカ、弁当に視線を落とししみじみと、

チカ「私、美大出身なんですけど、物作りと

 関係ない仕事に就いてしまって。そこで同

 僚が(に?)、棚の塗り直しして欲しいって言われ

 たんです。漆は触った事なかったんですけ

 ど、知れば知るほど魅力的で。それが完成

 して家に招かれた時、見かけたんです。

浩人「そっか……(?)」

   沈黙が流れるチカは意を決した様に、

チカ「あの、明日、お暇ですか?」

浩人「----どうして?」

チカ「車で一日、付き合ってくれませんか?」

   真剣なチカと混乱して戸惑う浩人。

 

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◆講評◆

〇浩人とチカの出会いが面白く描けていました。

 この二人はこれからどうなるのだろうと続きが

 気になります。五年選手の浩人が何故家を出て

 いたのか。その理由も知りたいな、と思いました。

 読み手(観客)にそう思わせたら、ファーストシーン

 は成功です。

〇仏壇という小道具や漆塗りというモチーフも目新しく

 てよかったです。次回も楽しみにしています。

 

 

▼ あとがき ▼

 

 元々短編として出来上がっていた物語を、始まりの出会いから、続きが気になるポイントまでを切り取りました。しかしながら枚数の制限から色々説明不足な部分が出てきてしまい、そこをどうにか出来ないまま締め切りが迫り提出してしまったので残念でした。

 本来ならば二人で仕事をするシーンの前夜に部屋を明け渡して物置部屋に布団を敷く浩人をチカが止めさせるシーン。その後浩人が片付けた私物を取りにチカの部屋を訪ねた際、チカが手作りの漆のアクセサリーを作っていることを知り、

(こういう漆の仕事に真剣に向き合える人が、こういった仕事に就くべき)

(つまり逃げ出した自分のようなものには続ける資格はないし、続けたくもない。でも仕方がないからやる)

といったニュアンスの会話が発生する予定でした。

家業と親、それに携わる自分をないがしろにするがゆえに、彼は自尊感情を失い、皮肉屋となってしまった。という彼の陰りを見せる、後の展開に繋がる重要な布石を孕んだシーンでした。

ちなみにそのアクセサリーを町のイベントで売るために車を出してもらおうとして、チカは浩人に明日に車を回してくれるように頼んだわけです。浩人は期待してしまったことに後悔をします。

 

 また縁側での会話の際にチカは、なぜ浩人は5年も続けた仕事を辞めたのかと、恐る恐る尋ねますが、この会話もカットせざるを得ませんでした。

 

 今回は元々出来上がった話を、たまたま診てもらえる機会に巡り合えたので出してみた。といった実験的な作品でした。

 この課題に取り組み始めた当初は、実際に成り行きで行くことになったゲイバーのマスターと怪しいお店のおばちゃんから耳にした出来事を絡めた話を書く予定でしたが、それはまたの機会に譲ることにしました。

 

 また、本作はアニメーションを想定したものです。

 この投稿を書く直前に「心が叫びたがっているんだ」(岡田磨理・脚本)を観ていたせいか、チカの声をあててくれる人は「水瀬いのり」さんがいいなー。とか思いました。いや、やっぱ早見沙織が理想的か……。でも玄野の声は完全に今日、藤原啓治さんにすり替わってしまいました。

クレヨンしんちゃん時代の刷り込みに、ひとり驚愕です。