シナリオ習作集⑥『ウチの○が好きすぎて困ってる。』

通っているシナリオ教室で提出した課題を掲載しています。

忌憚のないご意見をおまちしています。

 

課題 兄弟姉妹

(20x10)の原稿用紙に10枚

課題は"兄弟姉妹"ゆえの対立や葛藤、心情変化を表現してもらうのが目的です。

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タイトル : ウチの〇が好きすぎて困ってる。

 

人 物

那賀川桃(23)見吉辰巳丸の彼女。

見吉辰巳丸(21)大学生。

カヲル メッセージのみ。

見吉薫(29)辰巳丸の兄。姿なし。

芸人(42)声のみ。

 

▼ 本文 ▼

 

〇見吉辰巳丸の部屋(朝)

   こざっぱりした1DKの部屋。

   音を立てるエアコンとシャワーの音。

   控えめの音でテレビ番組が流れている。

芸人・声「正月も三日過ぎてて何が『初笑い』

 やっちゅうねん。元旦二日で笑うやろ~!」

   観客の笑い声が部屋に響く。

   窓辺のベッドの布団がもぞもぞと動く。

   一糸まとわぬ那賀川桃(23)が起き上がる。

   毛布を体に巻きつけてベッドの上に座る。

桃「寒か~……ばってん暖房のついとっちゃ」

   辺りを見渡すと、部屋の続きの脱衣所

   から風呂場の明かりとシャワーの音。

桃「タツミン、あいつシャワーか……」

   桃は一人クスクス笑うと膝立ちになる。

桃「たまには一緒に入っち、ぬくぬくにしち

 ゃろうかいね~♪」

   ケータイから通知音が鳴る。

   桃、ケータイを覗き込む。

   通知欄にメッセージアプリの表示が。

カヲル(タツにゃんおはよう♪ 起きてる?)

   桃、怪訝そうに眉を寄せる。

桃「タツにゃん……?」

   再びメッセージが届き、通知音が鳴る。

カヲル(地元からの帰りで疲れたやろ? 久

 々に帰ってきてくれて嬉しかったで~!)

   桃、部屋の真ん中で無造作に並ぶ二つ

   の開けっ放しのキャリーバッグを見る。

桃「なして知っちるん?」

   また通知音。(たまにはええやん♪)

   というカワイイ女の子のスタンプ

カヲル(それにしてもあの餅肌色白ベイビー

 が彼女作ったって聞いてビックリしたで!

 この色黒絶倫牡鹿面男が! でも関係ない、

 おまんは今でもウチの可愛いベイビーや!

 早よぉタツにゃん二世作って抱かせてや!)

   ケータイを握りしめ震える桃。

  (好きや言うて!)と女の子のスタンプ

カヲル(こっそり撮った寝顔の写真送るな♪)

 

〇同・風呂場

   シャワーを浴びている見吉辰巳丸。

   桃が勢いよく風呂場の戸を開け放つ。

見吉「何や、いきなり⁉」

   桃、ケータイを見吉の眼前に突き出す。

桃「あんた愛されとっちゃね~? さっきか

 らずっと呼んでたっちゃ、カヲルちゃんが。

 地元の知り合い? よか根性しとっちゃね。

 彼女ば家族に紹介しに連れてきよったんに。

 あん時か? 地元ん友達と飲みに来るいっ

 ち、ウチ置いて出かけよった時か⁉ ふざ

 くんなっ、なんしょったん、こん女とぉ!」

   見吉、両手を前に突き出し振る。

見吉「チャウチャウ! おまん誤解しとる!」

   桃、見吉の手をはたく。

桃「おまんてなんか! なんが誤解ちゃ、こ

 ん浮気もん! 学生が分際んくせして!」

見吉「勘違いや! ええか、薫や、カオル!

 俺の兄貴の名前や、忘れたんか⁉」

   固まる桃。

桃「あん時、車で駅まで迎えに来てくれた?」

   しかめっ面で頷く見吉。

桃「あん大手の『四元商事』に勤務しとる……」

見吉「お前、俺んちで名刺交換したんやろ?」

   桃、ハッとして部屋へと取って返す。

 

〇見吉辰巳丸の部屋

   桃、財布の札入れから名刺を取り出す。

  (四元商事 営業二課 見吉薫)

   見吉がバスタオルで体を拭きながら、

見吉「な? 勘違いやって、おまんの」

桃「ばってん、にゃんにゃん言葉やし……」

見吉「ウチの兄貴、頭おかしいんや。外面は

 まともやけど、俺の事いまだに小っちゃい

 赤ちゃんとかペット扱いしよんねん。昔、

 物心つく前からホッペつねられたり、ケツ

 蹴られたり、変なあだ名つけられたり……」

   ケータイの通知音。カヲルからの写真。

   薄目開けてコタツで眠る見吉の顔。

   噴き出す桃。見吉はケータイを鷲づかみ、

見吉「うっさいボケ、カス、彼女が見とる!」

   ケータイを操作し、送信する。

桃「珍しいぐらい仲のよかね。羨ましか」

見吉「これを三十近いおっさんが二十歳すぎ

 の男に言いよんねんで? ええか、ウチの

 兄貴は、変態なんや! 筋金入りのッ!」

   無言で見つめ合う二人。

   桃、急に見吉の頬へ指先を伸ばす。

見吉「なにしてんねん!」

   見吉、桃の手を払う。

   桃、足下の体を包み込むような大きな

   クッションに腰を下ろす。

   見吉も並んで座る。

見吉「おまん、頼むから兄貴みたいにならん

 といてな?」

桃「え~……」

   桃、見吉の腕と腕を絡ませ抱き寄せる。

桃「どげんしよーかいな~、タツにゃん♪」

   見吉、笑顔が強張り、口元がひきつる。

 

◆ 講評 ◆

おもしろいお兄さんですね。思わず笑ってしまいました。

桃が誤解してしまう状況設定も上手くつくられていました。

ユニークな兄弟関係は描かれていたのですが、見吉との誤解の

解決に作品枚数の大部分が使われていたのが残念です。

出来れば見吉を主人公にし、

彼と兄とのドラマが見たかったです。

是非、書いてみて下さい。おもしろいドラマになると思いますよ!

 

△ 訂正 △

〇人物表 カヲルは記載しなくてOKです。

     薫と同一人物ですので。

〇人物表 桃に『見吉辰巳丸の彼女』と書かれていますが、

     人物表は主人公からの関係を記すものなので、

     桃ではなく辰巳丸の方に『桃の恋人』と書いてください。

〇カヲルについて、

 LINEやケータイのメッセージは声でなければ

 ト書に書くようにして下さいね。

〇辰巳丸、初出の際は年令を書いてください。