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第2話_警報の夜_4.16 地震の日

2話

 

 

これまでのあらすじ

 

熊本地震の起きた日

偶然にも友達との旅行中に

阿蘇村に滞在していた僕たちは

泊まっていたロッジは危険だと、

車で避難することになった。

 

 

 

 心配して様子をうかがいに来たペンションのオーナーが

 すぐ近くにある温泉施設に避難するようすすめてくれた。

 

(酔いなんてさめちゃったけど、

これ完全に飲酒運転だろうな…。)

 

 のろのろと発進しながら僕は思う。

 まだべろべろになった宴会から2,3時間もたっていない。 

 

 温泉施設はこじんまりとした平屋づくりにも関わらず

 駐車場は3,40台停められそうなほど広い。

 すでに住民が集まり

 どこに視界を向けても車のライトが眩い。

 中には赤いランプの消防車両もあった。

 消防服を着た男たちが何やら熱い議論をしている。

 ここにいる人たちはみんな忙しそうに歩き回り

 顔見知りに声をかけたり、話し合ったり、

 観光者である自分たちには何もできない。

 誰にも話しかけられないし、何の役にも立てない。

 それはまるで陸の孤島のようだった。

 

「オレたち、ここから出れるんやろうか」

 

 誰ともなくつぶやく。

 

「出られたとしてもそのまま大阪に直行やね」

 

 カズさんの主張はもっともだった。

 僕は聞き返す。

 

「別府のフェリーですか?」

「いや レンタカー返さなあかんから、福岡の深夜バスやね。」

 

 もしこのまますぐ大阪に帰ってしまったら

 この旅が最後の日本旅行になるかもしれない

 コウやリミ、サルはどんなに悔しいだろう?

 みんな慣れない日本でアルバイトして貯めたお金を

 この時のために使わずにおいていたのに… 

 僕は、自分が主張することで何かが変わるかもと思い、

 おずおずとたずねた。

 

「せめてコウさんやリミの楽しみにしてた。

ハウステンボスか高千穂によれないですかね?」

 

 カズは困ったようにハニカミながら

 

「まずみんな安全な所に行くのが優先だって。」

 

 後部座席に乗っていたリミが身を乗り出し

 

「私たちのことは 気にしなくっていいよ。」

 

 隣にいたコウもうなづく。

 

 みんな大人で、僕だけが子供だった。

 僕は恥ずかしくなり、思わず小さくなる。

 ただ自分がこの旅を終わらせたくなくて

 みんなの気持ちを無視していたのかもしれない。

 

 

 

 

 重い沈黙が流れる。

 エンジンをつけてヒーターをかけるものの

 車窓から染みわたる冷気に身がすくむ。

 

「ラジオつけていいですか?」

 

 音があると眠れなくなるかもしれない。

 だけどどうせエンジンかけてるから車は揺れるし

 音はうるさいし

 寒さで変に体に力が入って眠れないし

 情報もほしい。

 

 車にラジオはついていなかったので

 僕のケータイのアプリでラジオをかける。

 熊本の放送局を選局すると

 意外にも軽やかなBGMが流れてきた。

 曲の合間にラジオパーソナリティー

 震災に関する情報や被災者の生の報告、励ましのメールを読み上げる

 悲惨さは一切感じない。

 東日本大震災のおり

 津波に飲まれる車と家、重油が流れ出し燃える海、

 原発の水蒸気爆発、土色の肌をした政治家たちの会見

 気の滅入るようなシーンを

 テレビで毎日見させられた。

『テレビは悲惨な出来事を映すが、ラジオは温もりと励ましを伝える』

 とはよくいったものだ。

 こんなときに音楽や励ましの声を聞くだけでも救われた気分になれた。

 

 そんなラジオに耳を傾けて

 ヒーターの温風に当たっていると

 だんだんウトウトしてきた。。

 そうして重く垂れさがったまぶたが力なく閉じ

 みんなの寝息が聞こえ始めてきた。その時、

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

地震です!地震です!」

 

 いきなりみんなのケータイが震え出し

 耳を塞ぎたくなるような音が鳴りだした。

 

グラグラグラ・・・

 

 するとたしかに車がゆれ

 タイヤがキシキシときしむ音も聞こえた。

 揺れは一分ほど続き、

 ほどなくして終わった。

 これが何だというのだろう?

 

「余震だね?」

「そうですね」

 

 こんなもののためにわざわざ起こされたのだろうか。

 腹が立つやらなんやら、

 一言毒づこうとしたその時、

 

ウ~っ!!!!!!!!!

 

 今度は不気味なサイレン音が辺り一帯に鳴り響く。 

 車の窓は閉め切っているにも関わらず

 耳を覆いたくなるような轟音。

 

「○×◇□、▽○□♪××…。」

 

 拡声器で誰かが何かを言ってるけど、聞き取れない。

 音がひび割れている上に、

 周りを山でかこまれたこの土地では

 やまびこ(エコー)が重なって

 何人もバラバラに話しかけられたようで

 耳が混乱してしまう。

 

「え、なに?!」

「ちょっと窓開けて。」

 

 温かい空気が逃げるのはもったいないが、

 大切な情報なら聞き逃したくない。

 窓を開けて耳をかたむける。

 

「こちらは、○○町役場です。

 ただいま地震がありました。

 住民のみなさんは

 指定の避難場所へ避難してください。

 くり返します・・・」

 

 くり返し聞く必要がないので窓を閉じた。

 

「あんまり大したことなかったね」

「ちょっと大げさだよね…。」

 

 誰得なんだろう?

 今さら避難していない人なんているんだろうか?

 みんな疲れているのに

 やっと眠れそうだと思ったのに、つまらないことで起こしやがって。

 

「コウヘイ。エンジン切ろう」

 

 カズさんの声はなんだか少し疲れていた。

 

「あ、はい。」

 

 僕はキーをひねりエンジンを止める。

 すでにガソリンは六割を切ろうとしていた。

 

 エンジンを切るとヒーターも止まるが

 温かい空気がたまったので

 我慢できなくはない。

 むしろ振動や音がなくなったので

 より寝心地がよくなった。

 

 個人的なわがままでまだラジオは切らずにいたが

 音量をメモリ1まで下げて

 まぶたを閉じる。

 そして間もなく

 あたりから寝息が聞こえ始めてた

 その頃…

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

地震です! 地震です!」

 

 再びケータイがわめき出す。

 

ウ~っ!!!!!!

 

 そしてまた狂ったサイレン。

 

「こちらは、○○町役場です…!」

 

(いい加減にしてくれーー!!)

 

 と思わず外に向かって叫んでやりたくなった。

 町中のスピーカーを叩き割ったら

 みんな救われるだろう、と思った。

 まだ避難していない人がいたなら

 お前らのためにみんな眠れないんだ!と

 袋叩きにしてやりたい気持ちになった。

 でもこれは政治の役目だから、仕方がない。

 ただ歯を食いしばってこらえるのみ。

 中には毛布代わりのコートを

 頭からかぶる人もいた。

 

 

 そんな安眠妨害が5,6回くり返されたころには

 みんなケータイ電話を切り

 外のサイレンを無視できるようになった。

 もう矢が降っても朝日が照らすまでは起きないだろう。

 もともと寝つきの悪い僕が

 きっと最後まで起きていたのだと思う。

 誰も動かない静かな車内の中、

 そろそろ潮時と思いケータイで時間を確かめると

 午後3時すぎ

 3時間も眠れたら御の字だなと思いながら

 メモリ1の静かなラジオを

 電源ごと完全にシャットダウンすると

 目の前の曇ったガラスの隙間からのぞく

 いくつかの星明りを眺めながら

 ゆっくりと眠りのはざまに落ちていった。