シナリオ習作集⑧「黒い指のチカ・前編」

とあるシナリオ教室にて提出した課題を掲載しています。

ご意見お待ちしております。

 

課題「出会い」 20x10 の原稿用紙15枚

○初めて会う人同士にすること。再会などは不可。

○人と人同士が出会う事。人と物、人と宗教、私と亀、などは不可。

○これからドラマに発展していきそうだという出会いを描いてください。

○起承転結の内、『起承』だけを取り出したような、完結していないものが望ましいです。また続きが気になるよう、観客の気を引くように締めくくってください。

 

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タイトル「黒い指のチカ・前編」

 

人物

玄野浩人(27)玄野家の一人息子

黒川チカ(23)『玄野仏壇』住み込みの新米職人

玄野悟(57)浩人の父。『玄野仏壇』社長兼職人

老人(73)『玄野仏壇』の客

 

〇(※走る)電車・車内(朝)

   東に見える『伊吹山』に朝日が差す。

   玄野浩人(27)が窓辺に肘をついている。

浩人「三年ぶりか----。長い家出だった……」

   一層物憂げな表情を滲ませる。

 

〇玄野家・玄関(朝)

   田舎づくりの家屋の引き戸が揺れる。

   鍵を開けた浩人が玄関を上がる。

浩人「ただいま……」

   返事はなく辺りも薄暗い。

浩人「一応連絡したんだけどな」

   すぐ傍らの階段を登る。

 

〇同・二階 浩人の部屋

   浩人、襖を開けて荷物を下ろそうとす

   ると、黒川チカ(24)が着替えてい(る)。

   二人とも短い悲鳴を上げる。

   浩人、襖を閉めるも肩から下ろそうと

   した荷物にもつれ、廊下ですっ転ぶ。

 

〇同・玄関

   階段を駆け下り(た)浩人の驚愕の表情。

浩人「誰……? 何で俺の部屋に?」

   ゆっくりと階段を下りてき(た)チカ。

チカ「あの、玄野さんの息子さんですよね?」

   作務衣姿のチカが浩人の前に膝をつく。

チカ「私『玄野仏壇』さんでお世話になって

 ます黒川チカです。よろしくお願いします」

   恭しいチカを呆けて見つめる浩人。

   突如、玄野悟(57)が玄関から入ってくる。

玄野「チカちゃん、準備できたか? ----何

 や浩人、もう帰ってたんか?」

   玄野、浩人の腕を掴みひっぱりこむ。

玄野「ちょっとお前も仏壇運び手伝え!」

   戸惑う浩人の後ろをチカがついてゆく。

 

〇トラック・車内(朝)

   2tトラックに座る浩人・チカ・悟。

浩人「おい親父、人雇ったって聞いてんぞ⁉」

玄野「出戻り息子に言う必要あるんか⁉ チ

 カちゃんはもう二年近く住み込みで働いて

 くれてるんや。お前は物置、部屋譲ったれ」

   閉口する浩人に申し訳なさそうなチカ。

 

〇お客さんの家・座敷(朝)

   晒(さらし)を取ると洋ダンス程の仏壇が表れる。

   漆(うるし)の光沢を見て家主の老人(73)が呟く。

老人「ほぉ~、よう直して下さった」

   細い晒を底部に通し、浩人、玄野が担

   ぎ上げ、チカは正面を押さえている。

老人「これで安心して息子に継がせられるわ」

   慎重に仏間へ納めようとしている三人。

   チカ、畳の縁にけつまづき仏壇を押す。

   悲鳴を上げる一同。

   仏間の壁にぶち当たる仏壇。

 

〇玄野家・作業場・塗り場

   (板)の間に簡素な座卓に座布団。脇の小

   さな棚に大小の刷毛と漆入りの茶碗。

   角の欠けた仏壇の台輪を前に玄野が、

玄野「まいったねー。これの直しか……」

   チカ、顔を赤くしてうなだれている。

玄野「そうだ浩人。お前、これ直せ」

   浩人は驚いて自らを指差す。

玄野「お前かて5年選手やろ? ワシは明日

 からお寺の内部塗装で居いへんし、元々残

 る予定のチカちゃんには出来へん。ついで

 に仕事を見たってくれ。仕事見つける言う

 ても時間かかるやろ。その間でええから」

   呆ける浩人にチカが頭を下げる。

 

〇玄野家・作業場・塗り場

(※次の日でしょうか?何か時間経過の工夫をしてみて下さいね)

   作務衣の浩人が台輪にパテをつける。

   町の時報が響き渡る。

浩人「お昼にしましょうか?」

   続きの部屋のチカが腰を上げ、シンナ

   ーの缶を持ち、布にふくませる。

   漆で黒く汚れた指先。

玄野の声「指で黒く汚すのは下手な証拠や。

 持つ品物みんな汚れるからなー」

   浩人、顔をしかめ眉間に皺を作る。

 

〇同・縁側

   浩人とチカ、距離をやや空けて座り、

   弁当を食べている。

浩人「チカさんって、何で漆塗り始めたの?」

チカ「……友達の家に玄野さんの作った仏壇

 があったんです。それに感鳴して」

   (後に調べたら『感鳴→感銘』でした)

浩人「それだけ?」

   チカ、弁当に視線を落とししみじみと、

チカ「私、美大出身なんですけど、物作りと

 関係ない仕事に就いてしまって。そこで同

 僚が(に?)、棚の塗り直しして欲しいって言われ

 たんです。漆は触った事なかったんですけ

 ど、知れば知るほど魅力的で。それが完成

 して家に招かれた時、見かけたんです。

浩人「そっか……(?)」

   沈黙が流れるチカは意を決した様に、

チカ「あの、明日、お暇ですか?」

浩人「----どうして?」

チカ「車で一日、付き合ってくれませんか?」

   真剣なチカと混乱して戸惑う浩人。

 

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◆講評◆

〇浩人とチカの出会いが面白く描けていました。

 この二人はこれからどうなるのだろうと続きが

 気になります。五年選手の浩人が何故家を出て

 いたのか。その理由も知りたいな、と思いました。

 読み手(観客)にそう思わせたら、ファーストシーン

 は成功です。

〇仏壇という小道具や漆塗りというモチーフも目新しく

 てよかったです。次回も楽しみにしています。

 

 

▼ あとがき ▼

 

 元々短編として出来上がっていた物語を、始まりの出会いから、続きが気になるポイントまでを切り取りました。しかしながら枚数の制限から色々説明不足な部分が出てきてしまい、そこをどうにか出来ないまま締め切りが迫り提出してしまったので残念でした。

 本来ならば二人で仕事をするシーンの前夜に部屋を明け渡して物置部屋に布団を敷く浩人をチカが止めさせるシーン。その後浩人が片付けた私物を取りにチカの部屋を訪ねた際、チカが手作りの漆のアクセサリーを作っていることを知り、

(こういう漆の仕事に真剣に向き合える人が、こういった仕事に就くべき)

(つまり逃げ出した自分のようなものには続ける資格はないし、続けたくもない。でも仕方がないからやる)

といったニュアンスの会話が発生する予定でした。

家業と親、それに携わる自分をないがしろにするがゆえに、彼は自尊感情を失い、皮肉屋となってしまった。という彼の陰りを見せる、後の展開に繋がる重要な布石を孕んだシーンでした。

ちなみにそのアクセサリーを町のイベントで売るために車を出してもらおうとして、チカは浩人に明日に車を回してくれるように頼んだわけです。浩人は期待してしまったことに後悔をします。

 

 また縁側での会話の際にチカは、なぜ浩人は5年も続けた仕事を辞めたのかと、恐る恐る尋ねますが、この会話もカットせざるを得ませんでした。

 

 今回は元々出来上がった話を、たまたま診てもらえる機会に巡り合えたので出してみた。といった実験的な作品でした。

 この課題に取り組み始めた当初は、実際に成り行きで行くことになったゲイバーのマスターと怪しいお店のおばちゃんから耳にした出来事を絡めた話を書く予定でしたが、それはまたの機会に譲ることにしました。

 

 また、本作はアニメーションを想定したものです。

 この投稿を書く直前に「心が叫びたがっているんだ」(岡田磨理・脚本)を観ていたせいか、チカの声をあててくれる人は「水瀬いのり」さんがいいなー。とか思いました。いや、やっぱ早見沙織が理想的か……。でも玄野の声は完全に今日、藤原啓治さんにすり替わってしまいました。

クレヨンしんちゃん時代の刷り込みに、ひとり驚愕です。

シナリオ習作集⑦『萌動、旅立ちの日へ』

通っているシナリオ教室で提出した課題を掲載しています。

 

課題:魅力的な叔父さん

(叔父さん=父の弟 であること)

本文 20x10 詰め原稿用紙 10枚

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題名 『萌動、旅立ちの日へ』

 

人物

山並颯介(17)高校3年生の男子

山並忠次(52)颯介の父

山並一葉(47)忠次の妻。流川四朗の姉

流川四朗(42)颯介の叔父。姿のみ

担任(54)男性教諭

 

▼ 本文 ▼

 

○末成高校・教室

   担任(54)の教科書を読む声が聞こえる。

   山並颯介(17)が広げているのは紀行本。

   ヒマラヤ山脈に背景に立てかけられた

   自転車と、満面の笑みを浮かべている

   流川四朗(42)の写真が載せてある。

   脇のノートに(以下の)>丸と矢印が書きこまれる。

  (『)松山→(海を越えて)北九州→博多→

  (海を越えて)→上海→ラサ→カトマンズ<(』)

   突如本とノートが(颯介から)>取り上げられる。

  (颯介の)>目の前には担任がたたずんでいる。

担任「授業中何やっとるんや?」

   颯介、担任に手を伸ばすも避けられる。

担任「放課後に職員室まで来なさい」

   教壇へと戻る担任を睨む颯介。

   ひそひそ声が辺りから聞こえる。

 

○同・職員室

   向かい合う颯介と担任。担任の手には

   授業中に颯介から取った本。

担任「流川四朗……お前の叔父さんやったな。

 書かれた本、読んだことあるわ。世界自転

 車旅の記録。ノンフィクションの小説で賞

 も取られていたな。……そんな叔父さんの

 後を追って、冒険家にでもなるつもりか?」

  (颯介は)>担任から一枚の紙を渡される。

担任「真面目に両親と話し合ったんか?」

   その紙は『進路希望調査書』志望校欄

   は空欄で、就職に印が入っている。

担任「バイトもやめとけ。お前のお母さん、

 心配して学校まで連絡してきたんやぞ?

 校則でバイトば禁止されとるん知っとるな。

 黙ってたるが辞めるまで本は預かっとくけん」

   俯きながら想いきり顔をしかめる颯介。

 

○コンビニ前

   晴天。田畑にポツンと佇むコンビニと

   駐車場に停まる引越し業者のトラック。

   荷台に腰掛け飯を食う制服姿の颯介。

   突然傍らのケータイが震え出す。

   メールが届いていた。差出人は叔父の

   流川。内容は(元気か?)(今は南米

   のアンデスにおる)そして旅の話が続

   き(姉さんによろしく)で締めくくり、

   追伸として(大人になったら一度広い

   世界へ飛び出してみぃ。きっと世の中

   の見方が変わるけん)と綴られていた。

   颯介、笑みが消え、うなだれる。

颯介「ごめん。折角の本、盗られてしもた」

 

○山並家・仏間(夜)

   御仏飯を仏前に添える山並一葉(47)の手。

   御輪を鳴らすと手を合わせる。

   仏間の座卓、上座に山並忠次(52)と俯く

   山並颯介(17)が向かい合って座っている。

   二人の間には『進路希望調査書』が。

山並「せめて相談ぐらいして欲しかったなあ」

   溜息をつく忠次に並んで、一葉が座る。

一葉「あんた、大学ぐらいは出ときなさい。

 それとも行きたくない理由でもあるん?」

   口を閉ざしたまま俯いている颯介。

一葉「まさか、叔父さんみたいになりたいと

 か言うんじゃないやろね? ……ダメよそ

 んなの。知っとるやろ? 叔父さんがどれ

 だけ迷惑かけてきたか。郵便とか色んな手

 続きとかを代わりにしてあげてるのに、帰

 って来たら部屋まで用意してあげて。……

 遭難届を出したこともあったわ。……バイ

 トもそのためなん? じゃけん就職ば選ん

 で、お金貯まるまで繋ぎにするってこと?」

   膝の上で引き絞られる颯介の握り拳。

一葉「黙っていんで答えたら、颯介!」

   颯介、突如座卓を両手で叩きつける。

   静まる一同。

山並「やめなさい、母さん……」

   山並、颯介に向き直る。

山並「な、颯介、別にいいんやぞ。やりたい

 ことやったら……」

   颯介、顔を上げる。

   一葉、口が開いたまま忠次を見つめる。

山並「ただ秘密にするのはなしやけ。じゃな

 いと応援することも出来んやないか」

   颯介の表情が強張る。

山並「若い頃、誰もが思い描く夢を、素直に

 追いかけられるんなんてめったにおらん。

 叔父さんはそんな人なんや。確かに母さん

 には迷惑のかかっとるけん、じゃけど父さ

 んは尊敬しとるんやぞ。……大人しうて口

 の重いお前が、学校で居づらそうにしとる

 のは知っとるけん。大学ば行きとうないも

 世界を旅したい思うも納得できる。それが

 前向きに生きてく力になるなら良いことや。

 でも、旅終えたらどうする? 叔父さんみ

 たいに本を書くか? それには勉強も必要

 やろう? 旅と同じで、今しか出来へんこ

 とがあって、それ逃してお前が後悔しとる

 とこは親として見とおないけん。皆、お前

 の味方ばなりたいんやぞ? 独り抱え込む

 な。夢の叶え方、一緒に話し合おう。な?」

   颯介、一層顔と拳に力が入り、頷く。

 

△ 講評 △

○ 颯介は世界を自転車で旅している叔父さんに

 憧れ、魅力を感じているのですね。しかし、母親

 には迷惑がかかっており、という状況。

 お父さんの説得に力がありました。

○ 出来れば叔父の流川も写真やメールのメッセージ

 だけでなく登場してほしかったです。

 自転車で帰って来た流川は、自分に憧れる甥と、

 どんなひと時をもつのでしょう。

 それが見たいと思いました。

 

※人物表にて、最後に句読点は不要です。

※人物表・山並一葉のところは『颯介の母』のように、主人公からの関係を書くようにしてください。

※本文 

 (メールが届いていた)→(届いている)

 (叔父の流川)→ 叔父は不要

 (綴られていた)→(綴られている)

  仏間にて、颯介は既に登場しているので改めてフルネームと年齢は不要。

 (忠次に並んで)→(山並に並んで)

 (静まる一同)→名前を書いてください

シナリオ習作集①『家業の朝』

最近通っているシナリオ教室で提出した課題を載せてみました。

 

課題 「日常の光景」

あなたの日常に起きた体験を書いてください。

ありのまま書いていただければ結構です。

(20X10文字の原稿用紙3枚)

 

 

題 「家業の朝」

 

● 人物 ●

壁花自裁 (XX) 下働きの職人。家庭の長男

壁花明子 (YY) 自裁の母。主婦

父 (ZZ) 親方

 

※( )内は年令

 

▼ 本文 ▼

 

○家のリビング(朝)

   午前6時半。

   壁花自裁(XX)がザックをひっつかみ、辺りをせわしなく歩き回っている。

   壁花明子(YY)がダイニングから現れて、

明子「お弁当、忘れないでね」

   自裁がしかめ面をする。

明子「仕事の作業着入れた?この前忘れてお父さんに叱られて、後でもめたんやろ?」

自裁「うるさいな、忘れてへんて!」

   自裁、ハッとした表情になる。

自裁「車のキー……」

   明子が呆れた表情をする。

明子「慌てんと、前もって準備しときいな」

 

○作業現場前の駐車場

   車の運転席から自裁が、助手席からは父(ZZ)が降りてくる。

父「いこか」

   自裁、ザックを担いで現場へと向かう。

 

 

◆ 講評 ◆

※人物の『家庭の長男』→『壁花家の長男』

※人物の『父』をフルネームで書いてください。セリフのある人は基本フルネームをつけます。

 例 : 壁花○○(ZZ)自裁の父。親方

※本文の『○家のリビング』→『壁花家・リビング』

※本文の『午前6時半』→例 : 『壁の時計が午前六時を示している』あるいは『T・午前六時半』

※本文中に『自裁「~~~」』となっていることについて、

 男性はふつう苗字で書きます。が、お父さんも登場するのでこの場合は自裁でいいと思います。

 

★ 総評 ★

 

○課題は家庭や職場など身の回りのことをシナリオの形式で書いてもらうものです。

 シナリオは、映画やテレビ等への映像化を前提とするため、基本的な書き方のルールがあります。

 まずは、「柱」「ト書」「セリフ」それぞれの役割を理解し、書き方をきっちり身につけてください。

 

○今回、細かな注意点はありますが、全体的にはよく書けています。

シナリオ習作集②『聖域、その強迫』

最近通っているシナリオ教室で提出した課題を載せてみました。

忌憚のないご意見お待ちしてます。

 

課題『迷っている人』

(20X10文字の原稿用紙3枚)

※課題『迷っている人』のポイントは、何故迷うのか、の事情(動機)、そして迷っている姿を描くことです。又、等価値の二つ以上のものの選択で迷っている主人公の様子を表現してもらうのが目的です。

 

 

題名『聖域、その強迫』

 

● 人物 ●

 

岩戸晃(15)ひきこもりの少年

新入生たち

 

▼ 本文 ▼

 

○桜の並木通り

   昼過ぎ。春の陽光が柔らかく降り注ぐ。

   穏やかな雰囲気の住宅街の堀の深い川。

   堀の土手には桜の並木が植わっている。

   桜の花は散りかけ、風が吹くと花弁が一斉に宙へと舞う。

   道を賑やかな歓声を上げる一団が通る。

   ピカピカの黒い学生服。近所の中学校に通い始めた新入生たちだ。

新入生たち「(ワイワイと賑やかな声)」

○マンション三階・晃の部屋

   窓から通りを見つめる岩戸晃(15)。

   ため息をつくと、ベッドに尻をペタンとつけたまま上半身だけ90度に捻る。

   薄暗い部屋には足の踏み場もない散らかりよう。ベッドの傍らに山積みの本。

   段ボールが山積みになった学習机。

   晃の思いつめた表情。鼻息が荒くなる。

   急に立ち上がり、部屋から出たすぐの玄関へと向かう。

○同・玄関

   玄関のドアノブを力強く握る。

   そのまま固まって動かない。

   すると晃は何度もノブを上下し始めた。

晃「外へ出よう、外へ出よう、外ヘ出ヨウ……」

   同じ言葉と動作を何度もくり返す。

   やがて急に膝を折り、泣き崩れた。

晃「お…ぅおお!。おおお…」

   両手でノブを握りしめたまま、細かく震え、固まり、動けずにいた。

 

◆ 訂正 ◆

※ 人物表の『人物』→『人 物』(ひとマス空けた方が見やすい。)

※ 本文には必ずノンブル(何ページ目か)を記入してください。(付け忘れ)

※ 本文『玄関のドアノブを~』→『晃は玄関のドアノブを~』

※ 本文『すると晃は何度もノブを上下し始めた』→『晃は何度もノブを上下し始める』

      『泣き崩れた』→『泣き崩れる』

      『動けずにいた』→『動けずにいる』

  (すると、は不要)(ト書き現在進行形で書くこと)

※ 『!』の後に句読点は不要。

※ 『…』は2マス使ってください。

 

★ 講評 ★

○外に出たい、でも出れない主人公の少年の迷う様子(苦悩の様子)がよく描けています。

○ト書が少し文学的すぎると思います。

 今回のト書の技術の講義でコツを掴んで下さいね。

 シンプルに、わかりやすく書く、がポイントです。

シナリオ習作集③『ハッピートレイス・轍の始まり』

最近通っているシナリオ教室で提出した課題を載せてみました。

忌憚のない意見をお待ちしております。

 

課題『始まり』

(20X10文字の原稿用紙4枚)

※課題の『始まり』のポイントは、何かのきっかけから意欲が立ち上がるさまを描くことです。

ドラマは主人公の意志と欲望で動きます。

 

タイトル 課題・『ハッピートレイス・轍の始まり』

 

◆ 人 物 ◆

道上歩美(27)休業中の元No.1ホステス

女性① 二人とも20代前半の女子大生

女性⓶ 休学して外国自転車旅へ出かけた

 

▼ 本文 ▼

 

ニューヨーク市・喫茶店・店内

   道上歩美(27)と二人の日本人女性がティーテーブルを囲み、地図を眺めている。

歩美「いい?あなたたちが自由の女神像を見てきたバッテリーバークはここ。今はここ。セントラルパークはまだ2キロも先よ」

女性①「へぇ~、そうだったんですかぁ」

   女性⓶が女性①と顔を見合わせながら、

女性⓶「久しぶりの大都会はやっぱり迷うね」

歩美「それにしても私、あなたたちを普通にこの辺りで暮らしている人かと思ってたわ。

 だってそんな恰好をしているんですもの」

   女性達のサイクリングウェアを眺める。

女性①「私こそ、お姉さんをブロードウェイで活躍中の女優さんかと思ってました~」

   歩美は膝元の鰐皮ポーチを撫でている。

歩美「お二人はどれぐらい旅をしているの?」

女性①「まだまだ半年ぐらいですよ」

歩美「まだって…相当長いと私は思うけど?」

女性①「はい、でも何年も旅している女の人、沢山会いました!日本人は珍しいですけど」

歩美「女の人で?」

   二人が頷き、女性⓶がしみじみと呟く。

女性⓶「ほんと、世界って、広いですよね」

   歩美、鰐皮を撫でる指先が固まる。

歩美「…あなた達、泊まる場所が決まっていないなら、私の住んでいるホテルに来る?」

女性⓶「…嬉しいです。でも自転車を部屋に上げてもいい安めの宿を探すことにします」

歩美「そう、…残念ね。見つかるといいわね」

   それから少し言葉を交し席を立つ歩美。

   女性達はケータイを取り出すと真剣そうに、でも楽し気に調べ物を始める。

   歩美は女性達を眩しそうに見つめる。

 

○同喫茶店・外

   街路樹に繋がれた二人のロードバイク

   擦り切れ色あせたサドルに歩美は触れ、再び眩し気な眼差しでジッと見つめる。

   踵を返すと再び喫茶店へ歩み出した。

 

 

◆ 訂正 ◆

※タイトルに『課題・』とつけるのは不要

※人物表の歩美について、『休養中の』は不要

※『○ニューヨーク市・』は切り離して別にし、まず先にニューヨーク市にいるという描写から始めるべき。

※?や!の後はひとマス空けること。

※『…』は2マス使うこと。 3点リーダーという『……』

※(それから少し言葉を交し)は削り、時間が経過したことを思わせる別の表現に置き換えてください。

※『○同喫茶店・外』の『喫茶店』は不要です。

※『歩み出した』→『歩み出す』 ト書は現在進行形で。

 

 

★ 講評 ★

 

○歩美が休職中であることはト書、セリフで描けばよいと思います。

 また女性①②ですが、セリフがあるのでフルネームと年齢を書いてください。

○人物表の説明の下には役者名が入るため、短くシンプルに書いた方がよいです。

シナリオ習作集④ 『皆様どうか、お忘れ物なさいませんよう……』

最近通っているシナリオ教室で提出した課題を載せてみました。

忌憚のないご意見をお待ちしております。

 

課題『ハンカチ』

(20X10文字の原稿用紙6枚)

※物語では小道具が重要な意味を持つことがあります。また演出の上でキャラの心理描写を手助けしたりします。

 小道具・ハンカチを通じて物語が展開する、話を進めていく因果を持たせてください。

 

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タイトル 課題・ハンカチ 『皆様どうか、お忘れ物なさいませんよう……』

 

   人 物

 

北路環(23)新米男性添乗員

女性客(47)日帰りバス旅行客

運転手(55)バスのベテラン乗務員

南(64)ハンカチを忘れた乗客

店員(19)

 

 

○大型バス・車内(夜)

   乗客がほとんど残っていない車内。

   乗降口前に立つ北路環(23)に女性客(47)がピンク色のハンカチを差し出す。

女性客「添乗さん、誰かハンカチ忘れてるで」

北路「本当ですか……どちらで見つけられたんですか?」

   女性客は車内通路を引き返し、6列目と7列目の中間にハンカチを置いた。

女性客「こんなふうに置いていたんです」

北路「……どちらの列か分かりますか?」

女性客「それは分からへんなあ~……」

北路「そうですか、ありがとうございました!」

   ハンカチを受け取りバスを駆け下りる。

 

○XX駅前(夜)

   北路が人通りの多い歩道を疾走する。

北路「どなたかハンカチ忘れてませんか~!」

   帰りしなの乗客達が見るも返事はない。

   北路は駅へと繋がる陸橋を駆け上がる。

北路「どなたかハンカチ忘れてませんか~!」

   行き交う人々が振り返るも返事はない。

 

○大型バス・車内(夜)

   戻ってきた北路に運転手(55)が声かける。

運転手「いたか?」

北路「見つかりませんでした……」

   北路、乗降口前に貼り出した座席表を剥がすと携帯電話を操作する。

北路「まあ、どちらかで決まりでしょうけど」

運転手「ここ長く停めとかれへんねん。悪いけど降りてくれへんか」

   北路、携帯の指が止まり運転手を見る。

 

○ラーメン屋(夜)

   北路は二人用席に座り、バインダーに挟んだ名簿と座席表を見比べている。

北路「六列目は男性お一人様同士の相席だし……」

   ピンク色のハンカチを見つめる北路。

北路「やっぱ七列目の南さんの組やろな」

   携帯を取り出すと電話をかける。

南「はい、南です~」

北路「私、関西旅行社の添乗員、北路です。南様、先程はお世話になりました~。ところでハンカチをお忘れではなかったですか?」

店員「塩バター大盛りお持ちしました~!」

   北路がバインダーをどかす。

   誤ってグラスにぶつけて水がこぼれる。

   慌てて座席表をどけたが濡れている。

店員「大丈夫ですか!?」

   北路は手元のピンクのハンカチを握るも手を止め、胸ポケットから自分のグレーのハンカチを取り出し、拭く。

南「あぁもう処分してもらっていいですよぉ」

北路「いいんですか?……かしこまりました」

   店員は卓を拭き終え、すでに居ない。

   電話を切り濡れたハンカチを摘み上げ、

北路「な~んも聞いとらん……」

   ネクタイを緩め、ため息をつく。

北路「だから、あんだけ、言うたやないなかい……!」

 

 

★ 講評 ★

○一枚のハンカチを通して北路のキャラクターがよく描けていました。

○ラストの、「だから、あんだけ……」の、あんだけは、「皆様、どうかお忘れ物なさいませんように」の事ですよね。

 だとしたら、作品タイトルにもなっているこのセリフを本文中に入れておけばもっと面白くなっていたと思います。

 

 

◆ 訂正 ◆

※ 人物表の『南』ですが、一見して男性か女性か分かりません。

 フルネームで書いて最初から女性と分からせてください。

 また声のみなのでこのように表記します。

 例 : 南洋子(64)バスの乗客・声のみ

 

※ 『置いた』→『置く』 ト書は必ず現在形で書いてくださいね。

   『声かける』→『声を』かける

 

 

◎ 質問コーナー ◎

 

①Q.『声かける』を『声をかける』 『見る』を『一瞥する』としたかったのですが、文字制限があり不自然な形で提出しました。

   やらないべきでしょうか?

   A.シナリオには一応の書式はありますが、作者の想いや意見を伝えるものです。

   なので、一瞥だと伝えないのなら、その様に書かれた方がいいと思います。字数を気にするよりも……。

   また、ト書は役者や演出家等への指図でありますので正確に書かれた方がいいと思います。

   「声をかける」と、きちんと、助詞を入れられた方がいいです。

 

②Q.文末に『……』や『?』『……!』などがくる場合、マス外に複数の文字を入れてもよかったのでしょうか?

  A.枠外にはみ出した文字や記号は次の行に書いてください。

    枠外は、『 」 』と句読点のみです。

 

③Q.店員が捌けていることをあえて書きましたが、不要でしょうか?

  A.不要ではないです。作者の意思なのですから。

   又、店員役の役者への指図でもあるので、書かれた方がいいと思います。

 

④Q.『積み上げ、』と文を結んだカ所がありましたが、キチンと一つの文章として結ぶべきでしょうか?

  A.大丈夫です。余り多用するのはよくないとは思いますが……

 

シナリオ習作集⑥『ウチの○が好きすぎて困ってる。』

通っているシナリオ教室で提出した課題を掲載しています。

忌憚のないご意見をおまちしています。

 

課題 兄弟姉妹

(20x10)の原稿用紙に10枚

課題は"兄弟姉妹"ゆえの対立や葛藤、心情変化を表現してもらうのが目的です。

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タイトル : ウチの〇が好きすぎて困ってる。

 

人 物

那賀川桃(23)見吉辰巳丸の彼女。

見吉辰巳丸(21)大学生。

カヲル メッセージのみ。

見吉薫(29)辰巳丸の兄。姿なし。

芸人(42)声のみ。

 

▼ 本文 ▼

 

〇見吉辰巳丸の部屋(朝)

   こざっぱりした1DKの部屋。

   音を立てるエアコンとシャワーの音。

   控えめの音でテレビ番組が流れている。

芸人・声「正月も三日過ぎてて何が『初笑い』

 やっちゅうねん。元旦二日で笑うやろ~!」

   観客の笑い声が部屋に響く。

   窓辺のベッドの布団がもぞもぞと動く。

   一糸まとわぬ那賀川桃(23)が起き上がる。

   毛布を体に巻きつけてベッドの上に座る。

桃「寒か~……ばってん暖房のついとっちゃ」

   辺りを見渡すと、部屋の続きの脱衣所

   から風呂場の明かりとシャワーの音。

桃「タツミン、あいつシャワーか……」

   桃は一人クスクス笑うと膝立ちになる。

桃「たまには一緒に入っち、ぬくぬくにしち

 ゃろうかいね~♪」

   ケータイから通知音が鳴る。

   桃、ケータイを覗き込む。

   通知欄にメッセージアプリの表示が。

カヲル(タツにゃんおはよう♪ 起きてる?)

   桃、怪訝そうに眉を寄せる。

桃「タツにゃん……?」

   再びメッセージが届き、通知音が鳴る。

カヲル(地元からの帰りで疲れたやろ? 久

 々に帰ってきてくれて嬉しかったで~!)

   桃、部屋の真ん中で無造作に並ぶ二つ

   の開けっ放しのキャリーバッグを見る。

桃「なして知っちるん?」

   また通知音。(たまにはええやん♪)

   というカワイイ女の子のスタンプ

カヲル(それにしてもあの餅肌色白ベイビー

 が彼女作ったって聞いてビックリしたで!

 この色黒絶倫牡鹿面男が! でも関係ない、

 おまんは今でもウチの可愛いベイビーや!

 早よぉタツにゃん二世作って抱かせてや!)

   ケータイを握りしめ震える桃。

  (好きや言うて!)と女の子のスタンプ

カヲル(こっそり撮った寝顔の写真送るな♪)

 

〇同・風呂場

   シャワーを浴びている見吉辰巳丸。

   桃が勢いよく風呂場の戸を開け放つ。

見吉「何や、いきなり⁉」

   桃、ケータイを見吉の眼前に突き出す。

桃「あんた愛されとっちゃね~? さっきか

 らずっと呼んでたっちゃ、カヲルちゃんが。

 地元の知り合い? よか根性しとっちゃね。

 彼女ば家族に紹介しに連れてきよったんに。

 あん時か? 地元ん友達と飲みに来るいっ

 ち、ウチ置いて出かけよった時か⁉ ふざ

 くんなっ、なんしょったん、こん女とぉ!」

   見吉、両手を前に突き出し振る。

見吉「チャウチャウ! おまん誤解しとる!」

   桃、見吉の手をはたく。

桃「おまんてなんか! なんが誤解ちゃ、こ

 ん浮気もん! 学生が分際んくせして!」

見吉「勘違いや! ええか、薫や、カオル!

 俺の兄貴の名前や、忘れたんか⁉」

   固まる桃。

桃「あん時、車で駅まで迎えに来てくれた?」

   しかめっ面で頷く見吉。

桃「あん大手の『四元商事』に勤務しとる……」

見吉「お前、俺んちで名刺交換したんやろ?」

   桃、ハッとして部屋へと取って返す。

 

〇見吉辰巳丸の部屋

   桃、財布の札入れから名刺を取り出す。

  (四元商事 営業二課 見吉薫)

   見吉がバスタオルで体を拭きながら、

見吉「な? 勘違いやって、おまんの」

桃「ばってん、にゃんにゃん言葉やし……」

見吉「ウチの兄貴、頭おかしいんや。外面は

 まともやけど、俺の事いまだに小っちゃい

 赤ちゃんとかペット扱いしよんねん。昔、

 物心つく前からホッペつねられたり、ケツ

 蹴られたり、変なあだ名つけられたり……」

   ケータイの通知音。カヲルからの写真。

   薄目開けてコタツで眠る見吉の顔。

   噴き出す桃。見吉はケータイを鷲づかみ、

見吉「うっさいボケ、カス、彼女が見とる!」

   ケータイを操作し、送信する。

桃「珍しいぐらい仲のよかね。羨ましか」

見吉「これを三十近いおっさんが二十歳すぎ

 の男に言いよんねんで? ええか、ウチの

 兄貴は、変態なんや! 筋金入りのッ!」

   無言で見つめ合う二人。

   桃、急に見吉の頬へ指先を伸ばす。

見吉「なにしてんねん!」

   見吉、桃の手を払う。

   桃、足下の体を包み込むような大きな

   クッションに腰を下ろす。

   見吉も並んで座る。

見吉「おまん、頼むから兄貴みたいにならん

 といてな?」

桃「え~……」

   桃、見吉の腕と腕を絡ませ抱き寄せる。

桃「どげんしよーかいな~、タツにゃん♪」

   見吉、笑顔が強張り、口元がひきつる。

 

◆ 講評 ◆

おもしろいお兄さんですね。思わず笑ってしまいました。

桃が誤解してしまう状況設定も上手くつくられていました。

ユニークな兄弟関係は描かれていたのですが、見吉との誤解の

解決に作品枚数の大部分が使われていたのが残念です。

出来れば見吉を主人公にし、

彼と兄とのドラマが見たかったです。

是非、書いてみて下さい。おもしろいドラマになると思いますよ!

 

△ 訂正 △

〇人物表 カヲルは記載しなくてOKです。

     薫と同一人物ですので。

〇人物表 桃に『見吉辰巳丸の彼女』と書かれていますが、

     人物表は主人公からの関係を記すものなので、

     桃ではなく辰巳丸の方に『桃の恋人』と書いてください。

〇カヲルについて、

 LINEやケータイのメッセージは声でなければ

 ト書に書くようにして下さいね。

〇辰巳丸、初出の際は年令を書いてください。